〈近赤外線で癌細胞を破壊する〉 May 2018

久しぶりのウエルネスレターです。今回は「近赤外線治療」についてレポートします。近赤外線治療はご存じでしょうか?現在癌治療において大きな成果を上げている治療法の主役が近赤外線です。

【治療法】

治療に使われる近赤外線は波長が最も短く700nm(ナノメートル1nm=10億分の1メートル)のエネルギーが高い光を使います。皮膚がん、食道がん、膀胱がん、大腸がん、肝臓がん、すい臓がん、腎臓がんなど、全身のがんの8~9割の治療をカバーできる。副作用はほぼ無く安全性が高い治療法です。その理由は、がん細胞だけに特異的に結合する抗体を利用するからです。IR700という物質であり静脈注射により投入されます。このIR700は、本来は水溶性ではないがシリカ(ケイ素)を入れて水溶性に変化させ投入する。またこのIR700は1日で尿中に溶けて排出されるので人体に対する負担は非常に軽いといえます。

IR700はフタロシアニンという色素で、波長700nmの近赤外線のエネルギーを吸収する性質を持っています。体内ではこのIR700が細胞と結合します。そこに近赤外線を照射すると化学反応を起こし細胞膜の機能を失わせ1~2分で癌細胞を破壊するのです。IR700と結合した癌細胞にのみ化学反応が起きるので他の良性細胞には何ら影響がありません。

米国食品医薬品局(FDA)では、癌治療に使う抗体を20数種類認可しており現在はこの中から選択して使用されている。この治療法を使用すると全身の癌9割に有効とされています。

【治療の範囲】

前述したように、「全身の9割をカバーし、皮膚がん、食道がん、膀胱がん、大腸がん、肝臓がん、すい臓がん、腎臓がんに有効です」

近赤外線の照射部位は、体外または内視鏡により体内の大きな癌にも有効です。この治療法は再生医療の分野でも応用されiPS細胞で臓器や網膜用のシートを作るとき、悪い細胞が入り込み発がん性を示す心配があるような場合でも、抗体をかけ近赤外線を照射すれば全ての悪細胞を破壊させることができるので、安全なiPS細胞シートや人工臓器を作ることが可能になるとされています。

【臨床について】

現在300人を対象に効果を臨床試験中であり2、3年後に実用化できる可能性がある。

臨床試験の認可はFDAから2015年4月に出ている。

〇フェーズ1=治療法の毒性を調べる 頭頸部の扁平上皮がんの患者10人を対象にして行った。この10人は癌手術の後に再発しどうにもならなかった患者である。

〇フェーズ2=30~40人の患者を対象に治療効果を調査する段階。

この治療法には副作用がないので繰り返し治療が可能である。

〇フェーズ3=従来の治療法との比較検討の段階であり今後このフェーズ3を目指す。

問題無く治験が終了すれば、概ね2、3年後にこの近赤外線治療が実用化される見込みである。

【転移癌に対する治療にも有効か?】

結論は有効である。これには二つの方法がある。

①  近赤外線治療により癌細胞に赤外線を照射する方法。この方法で癌細胞を破壊すると、多くの抗原(壊れたタンパク質)が発生し、近く存在する健康な免疫細胞がこの抗原を食べて情報をリンパ球に伝える。その後、リンパ球は分裂し抗原を持つ他の場所にある癌(転移がん)を攻撃する。このメカニズムが転移がんに対する免疫を活性化する主要な仕組みである。

②  もう1つは、がん細胞を直接壊すのではなく制御性T細胞を叩く方法だ。制御性T細胞とは、免疫細胞が癌細胞を攻撃することを邪魔している細胞のこと。ゆえにこの制御性T細胞を無くせば免疫細胞は癌細胞を攻撃できる。今回の方法ではIR700を付けた抗体を制御性T細胞に結合させ、近赤外線を当てて壊してこの結果を導くのである。制御性T細胞を叩く方法では転移癌への効果が大きい。

今後は癌の状態により上記2つの方法の組合せにより治療が行われる。

恐らく現在よりも費用は安く日帰り治療が実現しそうだ。

安価に出来るのは装置も薬剤も入手が容易である事が原因だ。

研究は進んでおり脳腫瘍についてはドイツ、すい臓がんについてはオランダが取り組んでいる。

すい臓がんでは再発率が4割と高いが今回の方法では取り残した患部に直接アプローチ出来るので寛解率が高いと思われる。

詳細は、インターネットで「近赤外線治療」を検索してみてください。

米国立がん研究所(NCI)主任研究員小林久隆氏のインタビュー内容を要約しました。

引用、参考文献:https://www.mugendai-web.jp/archives/6080

【続報】「がん光免疫療法」の開発者・小林久隆医師に聞く――転移がんも再発もなくなる究極の治療の実用化を目指して